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TISネットワーク通信vol.27-COLUMN

とくしま発世界へ

横浜国立大学名誉教授 西村隆男

若者の社会参加
 今年4月芦屋市で史上最年少の市長が誕生しました。26歳の溌溂とした若手です。社会を変える成功体験のなさが勝因と自己分析されたようです。3年前になりますが地元徳島市でも、女性として最年少市長(当時36歳)が誕生しました。
 若者は政治に関心が薄く、国政、地方政治を問わず年齢の高い方たちに比べ投票率は低調です。日本財団による「国や社会に対する意識(6カ国調査)」(2022年3月)では、「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」との質問に対して、インド(78.9%)、中国(70.9%)、韓国(61.5%)、アメリカ(58.5%)、イギリス(50.6%)と半数以上の若者が「そう思う」とポジティブな回答をしています。しかし、日本は26.9%と7割以上の若者は無力感なのか諦観しているようにも思えてきます。
 そうした中で、若者の政治への関心を高めさせるべき、積極的な社会参加を促すべきとの議論の高まりもあって、公職選挙法を改正し2016年より選挙権年齢が18歳に引き下げられました。また同時に学校教育においても主権者教育を推進するべく、文科省は指導のための手引書を作成し高等学校に配布もしてきました。
 投票は、国や地方の在り方を左右する大切な国民や住民の権利でありながら、ここ数年の国政選挙における若年者の投票率は決して高まってはいません。より積極的に政治参加を促すというのであれば、間接的な形での選挙権年齢の引き下げのみならず、被選挙権年齢も同時に引き下げなければ効果は薄いのではないかと思われます。
 

VUCAの時代
 今日の変化が激しく複雑な社会状況は、VUCAの時代と呼ばれることがしばしばあります。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなげた言葉です。気候変動により地球は危機に瀕し、生態系破壊は進み、世界各地の紛争は絶えず、格差はますます広がっています。
 持続可能な社会を築くために、SDGsが採択され各国は努力もしているのでしょうが、目標達成の2030年は近づくばかりです。
 私たち大人が責任をもって将来世代に安心して暮らせる世界を残していくべきですが、なによりも、将来社会を担っていく若い世代の発信にもっともっと耳を傾けていくべきでしょう。そのためには、自己肯定感が持てないままでいる若者を放置することなく、彼らが将来を悩み、真剣に考えて発信しやすくするための仕掛けを用意していくことが不可欠でしょう。
 国内でも、中高生の政治参加意識を涵養しようとする取組を早くから手掛けている自治体もあります。よく知られているのは山形県遊佐町の少年議会や、愛知県新城市の青年議会です。遊佐町では少年議会の議員を中高生から募集し、町長を選出し、町の行政のあり方を議論し、彼らの考える地域の施策を提案しています。多少ですが予算もついています。20年の伝統ある事業で、その成果もあり、山形県は国政選挙でも他県とくらべ高い投票率を誇っています。
 これらの取組をモデルとして全国に広げていく必要があるのではないでしょうか。

消費者市民として
 消費者教育推進法はその法の理念として、消費者市民の育成により、主体的に持続可能な社会の構築へ積極的に参加する資質を養うとしています。推進法は議員立法により4年近くかかり成立しましたが、この制定へのプロセスにおいて、私自身、当初からロビー活動等を通じ深く関わってきました。法案作りの肝は、消費者教育をどう定義するかでした。
 従来の消費者行政では、被害の未然防止や安全確保のための消費生活知識の習得が消費者教育・啓発の中心と捉えられていましたが、個人の安心・安全から、社会全体の安心・安全を作り上げるための消費者力を育成することが求められるとし、欧米ではすでに消費者教育の目標であった消費者市民社会の構築という概念を参考に条文に組み込んでいきました。
 言うまでもなく、消費者市民は市場における消費者であると同時に、社会へ責任を持つ市民でもあります。

アジア学生との交流から学ぶ
 私は、県のアジア学生とのオンライン交流事業にアドバイザーとして3年前より参加していますが、県内の学生に比べ、海外勢はポジティブな発言が目立ちます。2年前には、コロナ下で大学に登校できず、オンライン授業ばかりという状況に不満を持った学生の呼びかけで、授業料の一部返還を求めるオンライン署名が瞬時に広がり、結局、政府がすべての大学の授業料を半額にすることになったと聞きました。学生たちのアグレッシブな行動が功を奏したことに、日本の学生たちは目を丸くして聞き入っていたのが印象的でした。
 将来社会の在り様を巡って、これほど若年世代に刺激的な事業は他に見られないのではないかとさえ思います。昨年度は参加各大学がエシカル消費を考えたガイドブックを作成しました。それぞれとても興味深い内容で、県のHPにより英和両訳を見ることができます。今年の参加学生は、デジタル社会の消費者を巡る課題に取り組んでいて、成果物としてはショートムービーが来春には公開される予定です。
 海外の大学生らはスマホ処分等による電子廃棄物の問題点や、オンライン上に溢れるセルフメディケーションの問題点の指摘など、日本側の学生と視点の異なる提案も多く見られ、私も含めて互いに有意義な議論になっています。
 若者の声が世界に届く、Z世代の発信が世界を変える日が来たらんことを!

本記事にて紹介のあったハンドブックは、こちらからご覧いただけます。

https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/kurashi/shohiseikatsu/7214871/