近年、世界各国でプラスチックごみによる環境負荷が社会課題となる中、「使い捨て」から「繰り返し使う」社会への転換が進められている。韓国・ソウル市においても、使い捨てプラスチックの削減を重要な環境政策として位置付け、市民や事業者を巻き込んだ様々な取組を展開している。
韓国はテイクアウト文化やデリバリーサービスが非常に発達しており、利便性の高さと引き換えに大量の使い捨て容器が使用されている。こうした状況を踏まえ、ソウル市は資源循環都市の実現に向け、公共施設やイベント、スポーツ施設など市民生活に密着した場面で、使い捨てプラスチックの削減を進めている。単に使用を禁止するのではなく、リユース(再使用)の仕組みを社会全体に定着させようとしている点が特徴である。
特に近年、ソウル市が力を入れているのが、大規模イベントにおける使い捨て用品の削減である。多くの人が集まるイベントでは、飲食物の提供に伴い、短時間で大量の紙コップやプラスチック製容器、使い捨て食器などが使用される。楽しい時間を提供する一方で、終了後には大量の廃棄物が発生することが課題となっていた。
こうした課題に対応するため、ソウル市は2024年9月、参加予定人数が1,000人以上となる市および傘下機関主催のイベントについて、使い捨て製品の使用禁止などを義務化するよう制度を改正した。イベント当日に発生するごみを減らすだけでなく、企画段階から使い捨て製品の使用を抑制することで、持続可能なイベント運営を促す仕組みである。
制度の導入後、過去2年間ほどで50件以上のイベントがこの取組を遵守している。さらに、ソウル市によれば、2022年から2025年までの取組を通じて、合計449万個の使い捨て容器を代替し、約126トンの廃棄物を削減する効果があったという。こうした数字からも、個々のイベントにおける小さな取組を積み重ねることで、大きな廃棄物削減につながることが分かる。
その具体策の一つが、リユース容器の導入である。イベント会場では、飲料や食品の提供時に洗浄して繰り返し使用できるカップや食器を活用し、利用者は使用後、会場内に設置された回収場所へ返却する。回収された容器は専門事業者によって洗浄・衛生管理が行われ、再び利用される仕組みである。
この取組は、スポーツ施設にも広がっている。ソウル市では、大量の飲食提供が行われる蚕室野球場など主要スポーツ競技場において、リユース容器の導入を進めている。
2025年には、160試合を対象に約89万個のリユース容器が使用され、約25トンの使い捨て廃棄物を削減した。さらに注目されるのは、観客数が前年より11%増加したにもかかわらず、廃棄物量は13%減少したことである。来場者が増える大規模イベントにおいても、リユース容器の導入によって廃棄物の削減が可能であることを示す事例と言える。
また、ソウル市は消費者自身の行動変化を促す取組にも力を入れている。例えば、個人カップを持参して飲料を購入した場合にポイントを付与する制度を導入し、市民が環境に配慮した選択を継続しやすい環境づくりを進めている。
これらの取組の意義は、消費者に対して単に「環境のために我慢すること」を求めていない点にある。エシカル消費を広げるためには、一人ひとりの意識向上が重要である一方、日常的な行動として定着させるためには、環境に配慮した選択を容易にできる仕組みが不可欠である。
例えば、イベント参加者全員がマイカップやマイ食器を持参することは現実的ではない。しかし、主催者側がリユース容器を準備し、返却しやすい仕組みを整えることで、多くの来場者が特別な負担なく環境配慮行動に参加できる。ソウル市の取組は、エシカル消費を個人の意識や努力だけに委ねるのではなく、リユースを選びやすい環境を整え、その普及を後押しする取組であると言える。
一方で、リユースシステムの普及には、容器の洗浄・保管・運搬にかかるコストや、事業者間の連携体制の構築など、解決すべき課題も存在する。しかし、ソウル市では競技場や葬儀場など、使い捨て用品が大量に発生する場所から重点的に導入を進めることで、効果の高い分野から社会実装を進めている。
プラスチック容器の回収ボックスとイベントの様子(ソウル市内)
日本においても、自治体が主催する祭りやスポーツイベントなどにおいて、環境負荷低減に向けた取組が求められている。ソウル市の事例から学ぶべき点は、規制によって消費者の行動を制限するだけではなく、行政、事業者、消費者が連携し、環境に良い選択を自然に行える環境を整えていることである。
また、ソウル市の取組で注目したいのは、リユース容器を単に「環境に優しい商品」として導入するのではなく、回収、洗浄、再利用までを含めた一連の仕組みとして構築している点である。特に、観客数が増加する中でも廃棄物を削減できたスポーツ競技場の事例は、大規模イベントにおけるリユースの可能性を示している。
イベントは、多くの人が楽しむ場であると同時に、新しい消費行動や価値観を社会に広げる場でもある。ソウル市が進める「使い捨てないイベント」への転換は、環境保護と市民生活の利便性を両立させながら、持続可能な消費社会を実現するための一つのモデルとなっている。こうした動きはソウル市にとどまらず、近隣の京畿道でも同様の取組が進められており、リユース容器の活用は韓国内で徐々に広がりを見せている。ソウル市の取組は、イベントの在り方そのものを見直す動きと言えるだろう。(2,316文字)