近年、デジタル取引の拡大に伴い、「ダークパターン」と呼ばれる問題が注目されている。ダークパターンとは、ウェブサイトやアプリ等のインターフェースを利用してユーザーを誘導、欺瞞または操作し、本来であれば選択しなかった行動を取らせるような設計や手法をいう。例えば、有料サービスへの加入ボタンのみを目立たせる表示、解約手続を過度に複雑化する仕組み、利用者に不利益な選択肢を分かりにくくする設計などが代表例として挙げられる。こうした手法は、利用者の自由で十分な情報に基づく意思決定を歪めるものとして問題視されている。
従来、ダークパターンは主として消費者保護(BtoC)の文脈で議論されてきた。消費者は事業者に比べて情報や知識が限られており、取引経験にも差があることから、不適切なインターフェースによる影響を受けやすいと考えられてきたためである。近年では、消費者の自己決定を保護する観点から、ダークパターンに対する規制や執行の強化が進められている。
しかし、ダークパターンによる影響は消費者取引に限られるものではない。デジタル化が進展した今日では、中小・零細事業者もまた様々なオンラインサービスを利用して事業活動を行っている。クラウドサービス、オンライン広告サービス、電子契約サービス、オンライン・プラットフォームなどでは、契約締結、広告設定、商品登録、料金プランの選択等がすべてデジタル画面上で行われる。そのため、事業者であっても、インターフェース設計によって意思決定が左右される可能性がある。
例えば、事業者向け管理画面において高額な料金プランのみが強調表示され、標準プランとの比較が困難になっている場合や、追加サービスへの加入を促す選択肢があらかじめ設定されている場合には、利用事業者は十分な検討を行わないまま不必要なサービスを利用してしまう可能性がある。また、解約ボタンや設定変更画面へのアクセスが不必要に複雑化されている場合には、利用事業者が本来望んでいる選択を行うことが困難になる。これらは消費者取引で問題となるダークパターンと本質的に共通している。
もっとも、BtoB取引におけるダークパターンには独自の特徴もある。消費者取引では商品の購入や契約締結が主たる対象となるのに対し、事業者間取引では広告配信、顧客管理、商品表示、データ利用等の事業活動そのものが対象となる。そのため、ダークパターンによる影響は単発の損失にとどまらず、事業運営や競争力にも及び得る。特に中小・零細事業者は人的・財務的資源が限られているため、不適切な設計による影響を受けやすい。
このように、ダークパターンの問題はもはや消費者保護だけの課題ではない。デジタル取引が拡大する中で、中小・零細事業者もまたインターフェース設計による誘導や操作の対象となり得る。今後は、消費者保護の分野で蓄積されてきた知見を踏まえつつ、事業者間取引におけるダークパターンの実態把握と適切な対応を進めていくことが求められる。そのことは、中小・零細事業者の自律的な意思決定を支えるだけでなく、公正で信頼性の高いデジタル市場の実現にも資するであろう。