私は2023年10月から2025年10月までの2年間、JICA海外協力隊で理学療法士としてベトナム社会主義共和国のタインホア省サムソン市にある病院で活動していました。派遣された街は首都ハノイより車で3時間半ほどの南に位置する地方都市であり、省内全域から多くの患者が来院・入院するリハビリテーション病院でした。ベトナムでは30年ほど前から医療に理学療法を取り入れ、ベトナム各地にリハビリテーション病院も多く設立されています。JICA海外協力隊への要請は「理学療法の知識や技術の伝達」であり、理学療法士のスキルアップや人材育成を目的とするものでした。
協力隊の活動では、同僚の理学療法士と共に現地の患者にリハビリ介入を行い、お互いの理学療法の知識や技術を共有しながら、必要と感じる知識・技術を伝達しました。施設環境や仕事に対する考え方など、日本との違いによって戸惑う部分も多かったのですが、患者の能力改善のために同僚と共に理学療法のスキルアップに務めました。
2年間の活動中に、現地の理学療法士のスキル以上に大きな問題点だと感じた事は、ベトナムの患者の多くがリハビリテーション(リハビリ)についての認識が低い事です。日本ではケガや病気によってリハビリ入院・通院を行うことが広く知られていますが、ベトナムでは、「手術さえ行えば、その後は自然に完治する」「応急処置後に症状が落ち着けば、退院してもよい」と思っている患者が多いことです。
原因としては、年代や地域によって差はありますがベトナムではまだリハビリの概念が根付いてないことや、医者や理学療法士を含む医療者による説明不足により、正しい予後予測が出来ずにリハビリを実施しないなど、早期にリハビリを終了し帰宅退院を選択することが多いのです。
近年ベトナムでは、個人収入の安定や医療保険制度により一般的にも医療を受けられる体制は向上してきています。それでも経済的な問題で来院を拒む場合や、患者の介護(ベトナムでは入院中の食事・入浴・更衣などすべての介護は家族や親戚が行います)による家族の負担から退院を選択する患者もいます。また早期に仕事復帰を望み、中途半端な状態で退院することも多く、リハビリよりも生活や仕事を優先するケースも少なくありません。
リハビリを実施しないまま後遺症が残る場合や、リハビリ開始が遅く来院時には症状の改善見込みが低い患者も多いです。ベトナムでは身体に障害が残れば、福祉サービスの乏しさから生活や仕事に大きな障害をきたし、家族の介護負担が増加するなど、患者本人も仕事の選択肢は限られ収入に影響し、より生活が苦しくなることもあります。
私は来院・入院した患者に接することしかできませんでしたが、関わった患者や家族にはリハビリの重要性を伝えることを大切にしてきました。リハビリ介入中に、現状説明や改善までのリハビリ計画、動作の注意点、帰宅後の自主訓練継続を丁寧に説明することで、ケガや障害を改善し、安心して日常生活や仕事に復帰できるよう心掛けました。入院期間を少し延長したとしても、リハビリを中途半端にすることなく、能力改善を目指すことで今後の生活を豊かに暮らせるように、患者と協力しながらリハビリを実施しました。
また一緒に働く現地の同僚にも、リハビリ施術を行うことだけでなくリハビリの重要性を患者に認識してもらうことが大切だと伝えました。私がベトナムで活動したことで、今後の同僚や患者のリハビリに少しでも変化があればうれしく思います。
さらに任期を終えた今、協力隊で感じたリハビリの重要性は、日本での医療業務でも生かさなければいけないと感じています。現在、徳島県に在住する外国人は増加傾向にあり、中でもベトナム国籍の方が最も多いです。
県内の医療機関でもベトナム人を含む多くの外国人が医療機関を利用していますが、リハビリについての認識が低く、患者本人が治療を疎かにしてしまうことや、仕事を優先するケースもあるのではないかと考えます。
私も今後リハビリ業務で外国人患者と関わる機会が増えると思われます。その際には、患者がしっかりとケガや病気と向き合い、日本で健康な生活が送れるように、リハビリの重要性の理解を促すことが大切だと感じています。