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TISネットワーク通信vol.35-REPORT(クレア)

米国におけるドギーバッグ(Doggie Bag)の活用について

一般財団法人自治体国際化協会(クレア) ニューヨーク事務所

 米国では、食料廃棄は食料供給の30~40%と推定されており、2010年の統計では、約1330億ポンド(約600億トン)、1610億ドル相当の食品に相当する(小売店や消費者レベルでの食品ロスに関する米国農務省経済調査局の推計に基づく)(※1)。日本の食品ロスの発生量が令和4年度時点で約470万トンであることからも、米国におけるフードロス発生量は非常に多く、深刻な問題であると言える。

 そんな米国におけるフードロス対策の一つとして、ドギーバッグ(Doggie Bag)の活用が挙げられる。ドギーバッグとは、飲食店などで客が食べきれなかった料理を持って帰ることのできる容器のことを指し、米国のほとんどの飲食店等で見かけることができる。

 ドギーバッグの歴史は古く、第二次世界大戦までさかのぼる。戦時中、食糧不足に陥っていた米国では、食品廃棄を減らすための取組みが行われ、多くのレストランが客に残った料理をペットの犬のために持ち帰ることを推奨し、紙袋を提供し始めた。その名の通り犬に食べさせる料理を持ち帰るための袋として「ドギーバッグ」と名付けられた。ドギーバッグを最初に導入した飲食店としては諸説あるが、Smithsonian.comの記事(※2)によると、1943年頃サンフランシスコのカフェやシアトルのホテルから始まり、全米のレストランがそれに続いたとされている。他にも、1949年にニューヨークのグリニッジ・アベニューにあるダン・スタンプラーのステーキ・ジョイント・レストランにて、実際に犬の絵や詩などが描かれた袋を客の食べ残し用に提供しており、それがドギーバッグの始まりだとされる話もある。(※3)

※2より引用

 ドギーバッグの文化は徐々に全米に浸透していき、1999年にTaylor Nelson Sofres Intersearch社が行った調査(※4)によると、アメリカの成人の約60%がレストランで食事をした後、残った食べ物を持ち帰る習慣があるとされている。また、現在では犬用に持って帰るというよりも、自分や家族が食べるために持ち帰ることの方がほとんどで、近年ではドギーバッグではなく、単に”Bag”や”To go Bag”などと呼ばれることが多い。実際に現地のレストランを訪れた際も、こちらから頼まずとも店側から持ち帰るかどうかを聞かれたり、明らかに持ち帰りを前提とした量の料理が提供されている店もあったりと、ドギーバッグの文化がいかに米国で普及しているかを肌で感じることができる。

 また、ドギーバッグの普及とあわせて近年ではプラスチックごみの削減の動きも進んでいる。2019年7月、カリフォルニア州ではレストランが食べ残した料理を客が持参した容器に入れて持って帰ることを認める法案が可決された。(※5)もともと多くのレストランでは、2次汚染の発生を危惧し客が持ち込んだ容器を使用することを控えていたが、この法案により、客が持参した容器を安全かつ合法的に受け入れる方法についてレストラン側が従うべき手順が明確に規定され、使用の許可について容易にレストランが判断できるようになった。また、2023年7月より、ニューヨーク市はレストランでの料理の持ち帰りについて、新たな法案”Skip the Stuff(※6)”を採決した。本法案では、外食店や食品を配達する宅配業者、食品配達プラットフォームは、顧客が要求しない限り、テイクアウトやデリバリーの注文に対して、食器、予備の食器、調味料パック、ナプキンを顧客に提供することを禁止するとしている。これは、プラスチックごみの削減を目的に制定されたもので、違反すると事業者側は、$50~$250の罰金を払うこととなる。ドギーバッグを用いた食品ロス削減に加え、プラスチック製の容器の使用削減や再利用容器の活用など、環境問題解決のための動きが全米で加速しつつある。

 2015年9月、米国農務省(USDA)と環境保護庁(EPA)は、食品ロスと廃棄物を削減する国内初の目標である「米国2030年食品ロス・廃棄物削減目標」を発表しており、2030年までに食品ロスと廃棄を半減させることを目指している。また、2024年6月にホワイトハウスはEPA、USDA、米国食品医薬品局とともに、食品のロスや廃棄を防ぎ、食品やその他の有機物のリサイクルを増やし、温室効果ガスの排出を削減し、家庭や企業の経費を節減し、より清潔で健康的な地域社会を構築することを目標に「食品ロス・廃棄物の削減と有機物のリサイクルのための国家戦略 」を発表した。このように国全体としても様々な取組みがなされている一方でいまだに食品ロスの問題が根強く残る米国において、2030年までにいかにその状況が改善されるのか、今後の動向が注目される。