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TISネットワーク通信vol.34-COLUMN

消費者対応の新たなステージにおけるCXイノベーション

公益社団法人消費者関連専門家会議 専務理事 齊木 茂人

 近年、消費者と事業者が新しい価値を創造するためには、CX(顧客体験)イノベーションが重要な要素として注目されています。ACAPでは、CXイノベーションを消費者と事業者の「交わり」と「結びつき」による新しい価値を生み出す取り組みと定義しています。CXイノベーションの推進は、消費者関連部門の価値向上に直結します。さらに、消費者志向の企業文化の醸成を促し、ひいては消費者市民社会の構築や持続可能な社会の実現へとつながると考えられます。事業者がCS(顧客満足)からCX(顧客体験)への深化を進める中で、欧米をはじめとした海外の先進事例に学び、CXイノベーションの視点を取り入れた活動が広がりつつあります。

 一方、消費者対応においては、受付件数の減少が課題と感じています。入電件数が減り、メールやチャット、事業者のウェブサイト上でのFAQ(よくある質問)の活用にシフトした業者もあります。これまで、応対者は応対品質を磨き、お客様との双方向コミュニケーションの中で質問力を高め、お客様の声を集めることに注力してきました。お客様の声は減らすのではなく、いかに増やすか、その仕組みを作ることが重要だと考えられてきました。集めた声を分析し、VOC(顧客の声)を活用して他の事業部門や経営層に提供し、商品やサービスの改善・開発に活かしてきたと言えます。

 このような急激な社会環境の変化の中で、今、まさにCXにおける重要な観点である顧客との接点、タッチポイントのあり方を考えるときが来ていると感じています。ここで、事業者による2つの新たな動きを紹介します。

 1つは、アバターの活用です。対面で人と話すことが苦手でも、相手がアバターだと話しやすいという場合もあるようです。アバターがAIである場合、生きた会話には劣ることがありますが、その裏に人がいる対応だと知ると親しみを感じるようです。流通業でも実店舗での導入が進められています。

 2つ目は、BtoB企業によるSNSの活用です。BtoB企業の課題は、得意先の先にある消費者の声を集めることが難しい点にあります。そこでSNSを活用し、Facebook、Instagram、X(旧Twitter)などに専任の担当者を置き、タイムリーに消費者に寄り添った対応を実施しています。そこで集めた声を事業に活かすサイクルを作り上げています。

 実は、これらの活動もCXイノベーションの1つとして捉えることができます。アバターやSNSを通じた顧客体験は、顧客が感動する体験につながるからです。

 エシカルな社会を形成するためには、これらの変化を取り入れることが大事だと感じています。エシカルな生産やサービスを事業者が提供することや、CXイノベーションの考えの中にエシカルの要素を組み込むこと、アバターがエシカルを語ること、SNSの中でエシカルを課題提起し、顧客と対話することなどが求められます。入電件数が減少する状況に対し受け身のままではいけません。社会環境の変化を敏感に感じ取り、感度の高い顧客対応をする必要があります。そのためにも、目的を明確にした産学官の連携が望まれると考えています。