オーストラリアで生活をしていると、食の分野での環境への配慮をよく目にします。例えば、「スーパーでは多くの野菜や果物が無包装で量り売りされ、包装によるごみの削減だけでなく必要な分量だけを消費者が購入可能」「食事のテイクアウト時にもらうことができるスプーン、フォークなどのカトラリーがプラスチック製ではなく木製」など至る所にあふれています。今回、そんなオーストラリアから、近い将来世界各地に広がる可能性を秘めたある企業の食に関するエシカルな取り組みを紹介します。
オーストラリアの大都市シドニーに本社を置くGreenspaceは、都心部のビルの地下など余剰空間となっている場所を活用した栽培施設(マクロファーム)で野菜や食用花(以下単に「野菜」という。)を育て、収穫前の生きたままで新鮮かつ高栄養価な状態で近隣の企業や大学、レストラン、デパートなどに販売しています。日本にも既に、都心のビルの屋上や地下で野菜を栽培し、近場で消費することによって、農薬の不使用や地産地消、新鮮で高栄養価な食料の提供を可能にしている取り組みがいくつもあり、中には、土を使わず肥料を溶かした水で栽培することで水の使用量を抑えるといった優良事例もあります。Greenspaceの取り組みは、水耕栽培を含め上記で挙げた日本の事例の利点を兼ね備えているだけでなく、標準的なコンセントがあれば屋内のどこにでも設置可能な小規模の栽培設備(マイクロファーム)による環境と人に優しい形での納品が最大の特徴です。
Greenspaceによってマイクロファームが設置された顧客のもとに、マクロファームで栽培中の状態のまま野菜が毎週届けられます。配送時の包装は一切無く、また栽培中の状態ということで、野菜は収穫前の生きたままで新鮮かつ栄養価が高い状態です。すぐに食べられる状態で届けられますが、マイクロファームに設置した後も、引き続き野菜は生きたまま成長を続けます。そのため、顧客は自分の好きなタイミングで必要な量だけを収穫することができ、「仕入れたものの、時間が経ち鮮度が落ちてきたから廃棄せざるを得ない」といった問題も解決します。Greenspaceから仕入れた野菜を提供する店舗の多くは、マイクロファームを店内の目立つ場所に設置し野菜の新鮮さをアピールしています。その店舗の顧客にとって、目の前で生きたまま成長し続ける野菜は、新鮮かつ高栄養価でとても魅力的です。中には、店舗の顧客が直接マイクロファームから野菜を収穫し食べることができる場所もあります。
環境だけでなく消費者の健康にも優しいGreenspaceの野菜ですが、発注方法は、一週間単位を基本とするサブスク形式を採用しています。「今週は○○(野菜名)をいくつ」と、毎週顧客側の注文を受けてから栽培を開始するため、顧客側だけでなくGreenspace側での食品ロスも発生しにくい構造となっています。野菜の種類や大きさにより顧客への配送までの時間は異なりますが、例えばサラダに盛り付けるような小さな野菜であれば注文から10日程度で出荷しています。ちなみに配送方法は徒歩ということで、野菜の輸送に伴うCO2の排出は一切ありません。
現在シドニーとメルボルンにあるマクロファームですが、Greenspaceの担当者の話によれば、今後オーストラリア第三の都市ブリスベンにも開設予定で、ゆくゆくはアジアや日本への進出も考えているとのことです。生産・輸送・消費を通じて、脱炭素農業を実現しながら人にも優しいGreenspaceの取り組みが日本で見られるようになる日もそう遠くないかもしれません。
Greenspaceについて https://greenspace.com/ (外部サイト)
※Greenspaceの取り組みを本記事で紹介することについて、同社から許可を得た上で掲載しています。