TISネットワーク通信vol.27-REPORT(クレア)

 シンガポールは、東京都23区より少し大きい約734平方キロメートルの面積の島に、人口約592万人が住む都市国家です。農業用地は国土の1％に満たず、食材の90％以上を180 か国以上からの輸入に頼っています。
同国は、世界的な食糧需要の増加や気候変動による食料供給の変化に対応し、安全な食品供給を確保するため、国内における食材供給力の強化を図ることにより2030 年までに食料自給率を30％にすることを目指しています。

 今回は、用地の不足という制約がありながらも、環境負荷に配慮しつつ少ないコストで持続可能な食料自給を目指すシンガポールの取り組みのうち、供給側となるテクノロジーを活用した農水産業の取り組みに触れつつ、消費者が地元の農水産物をどのようにサポートし認識できるようになっているのか、エシカル消費の一つである地産地消に向けた需要側へのアプローチをご紹介します。

 自給率向上のためには、限られた土地で生産効率を上げる必要があります。そのため政府は地元の農場等に対し、農業生産性基金（総額6,300万シンガポール・ドル（約68億6,700万円、1Sドル＝約109円））による補助金制度を導入しました。同制度を活用し、水耕栽培システム、卵の包装を行う完全自動システム、魚の養殖に使用する水を海水から分離できる密閉型養殖システムの導入など、テクノロジーを活用した既存の農水産業の生産性向上に取り組むとともに、アグリテックと、細胞培養や代替プロテイン等を開発するフードテック分野を成長産業と位置付けて、両分野のスタートアップの育成を進めています。
 また、国内開発した都市型農業や水産養殖技術を周辺国に輸出する出口戦略をも見据えています。

 一方で、需要側の消費者へのアプローチも進めています。消費者は、商品広告や包装パッケージにある SG Fresh Produceロゴによって、地元の農水産物を簡単に識別できるようになっています。ロゴは、生産者や小売店がシンガポール食品庁に申請し承認を得た上で、一次農水産物、つまりシンガポールで栽培された生鮮食品及びそれを宣伝する資料のみに使用可能です。消費者は、大半のスーパーマーケットはもちろん、オンラインのファーマーズマーケットでもロゴのある卵、野菜、魚を容易に購入することができます。

 また、農場から食卓への認定プログラムFarm-to-Table (FTT)制度があります。FTTは、HoReCa (ホテル、レストラン、ケータリング業者) のメニューに地元の農水産物を持続的に採用してもらえるよう奨励する取り組みです。認定を受けるためには、卵、葉物野菜、もやし、魚の4つの食品分類のいずれかにおいて、地元生産物を15%以上調達している HoReCa企業が合格できます。合格企業は、食品庁やホテル協会等の関係団体によるプロモーション、特集記事や消費者キャンペーンを通じて認知度を高めることができます。

 また、ロゴは保証のマークでもあり、地元の農水産物を使用し、エシカル消費を奨励していることを消費者に訴求することができます。

 シンガポールの都市型農業、水産養殖は、用地の制約や人件費等のコスト、さらにそれが市場価格に反映されることから、食料自給率30％の達成に向けてまだまだ課題はあるものの、それらを克服すべくテクノロジーを活用して供給側における地産を増やし、消費者の需要を喚起して地消を奨励していく両輪の仕組み、言うなれば農水産物のエコシステムの構築に向けて積極的に取り組んでいます。食料自給率の向上、そして地産地消を進める日本としても学べるところは多々あるかもしれません。

シンガポール統計局ホームページ
Population
https://www.singstat.gov.sg/find-data/search-by-theme/population/population-and-population-structure/latest-data
Land Area
https://www.singstat.gov.sg/find-data/search-by-theme/society/environment/latest-data

シンガポール食品庁ホームページ
Our Singapore Food Story
https://www.sfa.gov.sg/food-farming/sgfoodstory/our-singapore-food-story
Grow Local
https://www.sfa.gov.sg/food-farming/sgfoodstory/grow-local
Supporting Local Produce
https://www.sfa.gov.sg/food-farming/sgfoodstory/supporting-local-produce

JETRO地域・分析レポート「目指すは30％の食料自給率達成」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/7b300ec8fb5bf601.html
JETRO地域・分析レポート「農園経営に新規参入加速、課題も多いアグリテック」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/b5c883b5acb0872a.html