文字サイズ

やさしいブラウザ・クラウド版はこちらからご利用下さい
ロゴ

TISネットワーク通信vol.26-REPORT(クレア)

自転車と鉄道の利用を促進するドイツの取り組みについて

西田 隆章(クレアロンドン事務所所長補佐)

 欧州では、自転車利用先進国と言われるオランダやデンマークなどをはじめ、自転車の利用促進に向けた取り組みが進められているところです。「小回りが利きやすいから」「健康維持のため」など、自転車を利用する理由は人によって様々ですが、「環境に配慮した移動手段を選択したいから」といった理由で自転車を利用する方もいらっしゃいます。近距離の移動の際、車ではなく自転車を利用することは二酸化炭素の排出を減らすうえで有効であり、エシカルな選択であると言えます。今回は、自転車と鉄道の利用促進を目指すドイツの取り組みについてご紹介します。

 ドイツで最大の鉄道会社であるDB(Deutsche Bahn、ドイツ鉄道)を利用していると、自転車マークのある車両をよく見かけます。これは自転車の持ち込みが可能な車両であることを示しています。ドイツでは、いわゆる日本の新幹線に相当するインターシティーエクスプレス(ICE)以外のほぼ全ての列車で自転車の持ち込みが可能であり、自転車→鉄道→自転車のシームレスな移動を実現しています。

 さらに、DBはこの取り組みを加速させるため、ゲーミフィケーション(*1)を活用したモバイルアプリケーション「DB Rad+」をドイツ国内17の都市で展開しています。DB Rad+アプリは、17都市でのサイクリング中に自転車での走行距離を計測し、いわゆる飛行機のマイレージのように、これまでの走行距離をkmとして貯めていきます。一定のkmに達すると、例えばオーガニックリンゴのプレゼントや、コーヒー豆の注文の10%割引といったように、協賛企業の特典や割引券と交換することができます。

 恩恵を享受できるのは参加者個人だけではありません。自身のkmと他の参加者が集めたkmが都市ごとに合計されており、合計kmが一定の目標に達すると、DBや自治体がインフラ整備やイベント等を実施するといった特典が準備されています。例えば、ヘッセン州の州都であるヴィースバーデンでは、合計25,000kmで「中央駅に自転車修理ステーションの設置」、合計50,000kmで「駅前広場での自転車チェックを無料で提供(1日限定)」、合計125,000kmで「宮殿広場への木の設置」、合計250,000kmで「自転車フリーマーケット、修理ステーションなどを兼ね備えたサイクリング愛好家向けイベントの開催」、合計450,000kmで「自転車を無料で専門的に掃除できる自転車洗浄を無料で提供(1日限定)」、合計600,000kmで「スーパーブロックサンデー(車を通行止めにし、路上で屋台の出店やイベント等)の実施」、合計1,000,000kmで「カーゴバイクの設置(誰でも無料で利用)」といった特典があり、これらを通して、都市全体が恩恵を受けることができるようになっています。

 DBはDB Rad+アプリにより参加者のモチベーションを高めながら地球環境に優しい自転車と鉄道の利用を促進しています。日本でもサイクルトレインによる自転車利用促進の取り組みが広まりつつありますが、今後自転車利用をより一層普及させるためには、このような取り組みも参考になるのではないでしょうか。

(*1)課題解決や顧客・ユーザーの獲得等を目的に、テレビやスマートフォン等のゲームで使用されている技術や手法を活用するアプローチ法。
https://www.jlgc.org.uk/jp/ad_report/gamification/

【参考記事】
DB Rad+ (DBホームページ)
https://www.bahnhof.de/en/discover/radplus
https://radplus.bahnhof.de/

Deutsche Bahn Rad+ App(UX DESIGN AWARDS)
https://ux-design-awards.com/winners/db-rad-app