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TISネットワーク通信vol.22-REPORT(クレア)

PHEV・EV車普及 VS 道路財源の減少 サステナブルな道路インフラの維持管理を目指す取組

安浪 真(一般財団法人 自治体国際化協会(CLAIR)ニューヨーク事務所 所長補佐 )
図1:電気自動車の保有台数推移※1

【アメリカにおけるEV車普及の現状】
 自動車大国であるアメリカにおけるEV市場は、近年拡大傾向にあります。IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、米国は欧州、中国に続いて世界第3位のEV市場であり、BEV(バッテリー電気自動車)及びPHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)の保有台数は、2016年の60万台から2021年には200万台と大幅に増加しています(図1)。

 また、バイデン政権は、2021年8月に2030年までに販売される新車(乗用車と小型トラック)の50%以上を電気自動車及び燃料電池車とする大統領令を発令し、同年11月にはEV車充電スタンド網の整備を盛り込んだ超党派によるインフラ投資計画法案を可決するなど、温室効果ガス削減に向けて、EV市場の普及を後押しする政策を進めています。

図2:EIAによるガソリン税収の推移予測※2

【EV車普及により発生した新たな課題】
 EV車普及への取り組みが進められる一方で、ガソリン税の減少が予測されています。EIA(米国エネルギー情報局)によると、ガソリン税の税収は、2050年には2019年の税収に比べて19%減少すると予測されています(図2)。

 アメリカは、道路インフラの維持管理のための収入をガソリン税で賄っているため、EV車の普及に伴うガソリン税の減少は、今後の持続的な道路の維持管理のための財源の確保における1つの課題と言えます。本稿では、EV車の普及というサステナブルな取り組みが進む一方で発生する新たな課題への対応の一例について紹介します。

「走行距離使用料」の概要※5

【新たな「走行距離使用料」に向けたパイロットプログラム】

 クレアニューヨーク事務所では、アメリカの地方政府系団体との連携強化のため、各団体が開催する年次総会に出席し、関係者とのパイプの構築、アメリカの地方自治体が取り組んでいる最新の政策事例の収集などを行っています。2022年7月に開催されたCSG South(州政府協議会・南部地区)の年次総会※[3]で行われたセッションでは、この課題に対してThe Eastern Transportation Coalition(東部交通連合)という複数の州の連合体による「走行距離ベースの使用料(MILEAGE BASED USER FEES)」実現に向けたパイロットプログラムについての紹介・議論がなされました※[4]

 東部交通連合は、17の州とワシントンDCによる連合組織で、公共交通に関する課題に取り組むため、州(道路の維持管理は各州の権限)を超えた一体的な活動を行っています。メンバーは、州、地方政府及び連邦政府の公共交通関係部門のほか、旅客事業者、運送業者、自動車代理店などの多様なステークホルダーにより構成されています※[5]

2022年年次総会サマリーレポート※4

 このパイロットプログラムは、走行距離に応じた使用料をドライバーに課す「走行距離ベースの使用料」について、上記ステークホルダーとの連携のもと、様々データを収集・分析することにより、その実現可能性を模索し、かつ、適切な政策意思決定を行うことにより、ガソリン税にとって代わる持続可能な道路維持管理の財源の確保を目指すものです。

 本プログラムでは、1,500台以上の乗用車、270台の商業用トラックによる実証実験が行われ、GPS搭載別、非搭載別によるデータ収集がなされています。また、3,000人を超える住民へのアンケート調査なども行われ、それらの収集データを基に都市部、郊外部それぞれの家計に与える影響や、州を超えた場合における具体的な徴収方法、走行距離課税の社会的受容性、適切な金額の設計などが分析されています。

 年次総会のセッションでは、プログラムを通じた成果や課題についての議論がなされました。ヴァージニア州からは、これらの取り組みによる大きな変化として、将来的な道路使用料の在り方について多様なステークホルダーによる議論が高まってきていることが報告されました。そして、その議論を通じて明らかになった課題として、例えば、距離に応じた利用料とすることで車種や年式、都心と郊外の日常的な走行距離の差による負担の公平性に問題があることが挙げられました。また、「走行距離ベースの使用料」をどのように設定するのかについては、走行距離のみによって課すのか、車種や車両、年式、走行距離などに応じて課すのか、電気自動車固有の使用料とするのかなど様々な選択肢があるが、結局のところ、その導入には、個別の自動車ごとの走行距離を公平に把握するシステムが必要であり、単に車検時に走行距離を確認するといったローテクな手段ではなく、ハイテクなアプローチができるような自動車業界の技術革新が必要となることなどが指摘されました。

【最後に】

 上記で紹介した「走行距離ベースの使用料」はまだ検討段階であり、その実現に向けては解決するべき課題も多く、セッションのパネリストもベストな回答を持ちえない印象でした。しかしながら、EV車の普及に伴うガソリン税の減少により、道路インフラの維持管理の財源をどのように確保していくかは避けて通れない課題です。今回紹介した事例は、この課題に対して、行政だけでなく、関係事業者、更には一般の自動車ユーザーといった多様なステークホルダーを巻き込んだ検証が行われています。このような形でよりよい手法を模索していくプロセスこそが持続可能な自動車社会の実現に向けた第一歩と言えるのではないでしょうか。

[1]※1 IEA 2022;Global EV Outlook 2022,https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2022/trends-in-electric-light-duty-vehicles#abstract,License: CC BY 4.0;

[2]※2 EIAホームページ:https://www.eia.gov/outlooks/aeo/narrative/consumption/sub-topic-01.php

[3]※ CSG South年次総会のホームページ:https://csgsouth.org/southern-legislative-conference/

[4]※ 2022年年次総会サマリーレポート:https://csgsouth.org/wp-content/uploads/SLC-2022-SummaryReport.pdf

「走行距離使用料(MILEAGE BASED USER FEES)」実現に向けたパイロットプログラムセッション資料:https://csgsouth.org/wp-content/uploads/Policy-Session-5-The-Road-Oft-Taken.pdf

[5]※ 東部交通連合のホームページ:https://tetcoalition.org/

「走行距離使用料」の概要:https://tetcoalition.org/wp-content/uploads/2022/08/TETC-Innovation-One-Pager-2022_06.pdf

お問い合わせ
危機管理環境部 消費者くらし安全局消費者政策課
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