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TISネットワーク通信vol.20-REPORT(ジャイカ)

ジャイカ徳島

 JICA海外協力隊で出会ったご縁から、現在は旧木頭村の会社で働く中川朋子さん。1990年代に任地マラウイでの経験から、現代日本の食料事情、環境や社会のことを考え、地域の特産にこだわり商品開発をされています。生産者と消費者 両方の最善を考えるお話です。

木頭柚子の里より エシカル・サスティナブルな商品づくりを目指して

中川 朋子(株式会社 きとうむら(徳島県那賀郡那賀町木頭))

 私は1990年代初めに青年海外協力隊に参加し、東アフリカのマラウイ共和国にシステムエンジニアとして2年間赴任しました。同時期に協力隊員として同じ国に派遣された木頭出身の夫と現在(株)きとうむらで働いています。

 きとうむらの所在地、徳島県那賀郡那賀町木頭(旧木頭村)は、高知県と徳島県の県境の山間部にあります。清流那賀川の上流に位置し、品質の高いことで知られる木頭柚子の産地です。20年以上前の話になりますが、長年に亘る住民のダム建設反対運動を経て、全国で初めてダム建設を止めた村としても知られています。きとうむらもその時期に設立され、特産の木頭柚子や地域の資産を活用した村おこし、オーガニック、農薬・化学肥料不使用、環境に配慮した商品づくりを心がけてきました。
 

写真:清流那賀川
清流那賀川
写真:木頭集落
木頭集落
写真:木頭柚子
木頭柚子、自社・契約農園はすべて農薬・化学肥料を使わず栽培

 きとうむらの主力商品は、国産小麦粉と国産大豆のおからを使った固いのが特徴のおからくっきー、紙パックに入った5年保存の「山の湧水」、農薬・化学肥料不使用栽培の木頭柚子を伝統的な手しぼり機でしぼった果汁「木頭柚子しぼり」などがあり、現在約30種類の商品を20名程の社員で手がけています。

 少し前に「おからくっきーごま」や「柚子南蛮」に使う「黒ごま」について困ったことがありました。長年、長崎の生産組合さんから仕入れていましたが、度重なる自然災害の影響で出荷が困難との連絡を受け、国産のごまをいろいろと探しましたがなかなか見つかりませんでした。1970年代に570tあった国産ごまの生産量は2000年には50tを下回ったそうです。減少の理由の一つは大変に手間がかかる割に収穫量が少ない作物だからだそう。現在、国産は0.1%で99.9%は南米など外国からはるばる日本に届いているとのこと。幸い取引先の協力があり仕入れ先が見つかりましたが、外国産に比べ相当に割高で、また以前より価格が高騰しています。それでもきとうむらとしては、今まで同様、国産ごまを応援したいという気持ちから国産ごまを使い続けようということになりました。
 

写真:きとうむらの商品
きとうむらの商品 紙パック入りの水はめずらしい

 グローバル化が進み、遠く離れた外国産の方が国産のものより安価に手に入ります。フェアトレード商品や有機作物など、海外の生産者に協力できる品も多々あります。しかし外貨獲得のための大規模経営で現地の水資源や環境破壊、小規模農家や地域住民が悪影響を被る場合も。そうしたことにも配慮した原料選び、商品づくりを心がけたいと思っています。


 世界情勢に変化があれば輸入がストップする可能性もあり、日本の食料自給の現状には危機感を感じます。かつて暮らしたマラウイ共和国では干ばつで食糧が不足することがしばしばあり、UNHCR※のロゴの入ったとうもろこしの粉や砂糖を買うのに長蛇の列ができるのを目にしました。はたしてこれは遠い国だけで起こることかと考えると違うように思います。週末だけの草ぼうぼう、ほったらかし農業ですが、自家消費用の田んぼや小麦、少々の野菜を育て食卓の自給率を上げています。日本の過疎地には高齢化と人口減少で休耕田があふれています。少しずつでも農地が有効活用されればと思います。

 先日、自宅の柚子の木に鳥の巣を見つけました。柚子のトゲで外敵から巣を守り、平和な空間を築いていました。人間だけでなく様々な動植物が生きるかけがえのない地球。皆が平和で穏やかに暮らせるよう、生産者として、また消費者として、責任を持って選択し持続可能な環境づくりに配慮していければと思います。

※国連難民高等弁務官事務所:世界の難民の保護と支援を行っている機関
 

写真:柚子の木のトゲに守られた鳥の巣
柚子の木のトゲに守られた鳥の巣

 タイ カレン族の人々が来村、お茶の製法はほぼ同じらしく慣れた手つきで手伝ってくれた。同じ山間部の住民として共通の話題も多かった。