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漁師の食卓 春夏

 春が近づくと水が温み、魚たちが活発に動き始めます。マダイなどの多くの魚は産卵をひかえて、脂がのって美味しくなります。また、夏が旬の魚は栄養価が高く、夏バテ防止にも役立ちます。

 豊かな海に恵まれた徳島県では、たくさんの漁港があり、四季を通していろいろな種類の魚が水揚げされます。漁師さんの家では、どのような魚料理が食卓に上るのでしょうか。

 「食材を生かして手間をかけず」。県内の各漁協のおかみさんが教えてくれた料理はどれも簡単で美味しいものばかり。以下を参考にさっそく挑戦してみましょう。

おしながき

おしながき

  1. マダイ:皮霜造り
  2. マアジ:姿寿司
  3. シロギス:天ぷら・吸い物
  4. 小エビ:そぼろ寿司・唐揚げ・海老団子
  5. イサキ:焼き切り(焼き霜造り)・アラ煮・唐揚げ
  6. チリメン:もやしチリメン
  7. カサゴ:唐揚げ
  8. トコブシ:トコブシ丼
  9. フノリ:天ぷら

マダイ

豪快な鯛料理

 「播磨灘では多くの魚種が捕れるんです」と語ってくれたのは北灘漁協の延原さん。鳴門市北灘町の粟田漁港では一年を通してたくさんの種類の魚が水揚げされています。

 とりわけ有名なのが定置網で捕れる「鳴門鯛」です。「鳴門海峡で育った鯛の中には、激しい潮の流れの中で泳ぐために骨にコブを持つものがおるんですわ。

マダイの皮霜造り

 鯛は用途が広い魚で、姿造りから旨味を十分引き出した鯛飯、頭はかぶと煮、内臓は煮付けや汁物にと、捨てるところがない魚です。延原さんに、地元ならではの豪快なタイ料理「マダイの皮霜造り」、「蒸し鯛」を教えていただきました。

「マダイの皮霜造り」の作り方

(1) 鱗を取って水洗いする(大根の切り口で引くときれいに取れる)。三枚におろして切れ目を入れる。
(2) 切り身の皮側に熱湯をかける。
(3) すぐに氷水に入れ、素早く冷ます。
(4) 水気を取り、中骨を除いて皮側から引くように切って刺身にする。(姿造りの場合は腹を残し、上身だけ切り取る)

蒸し鯛

(1) 内臓を取り、水洗いをし、皮に切れ目を入れる。
(2) 大皿に盛り、酒、みりん、しょうゆで適宜味を付ける。
(3) 蒸し器で蒸す。大きさにもよるが約20分ぐらいが目安。

マアジ

食卓で大活躍の大衆魚

 「アジは一番よく食べるなじみがある魚」と北泊漁協婦人部の谷井さんは言います。塩焼きや煮物、たたきやフライと食卓で大活躍です。初夏に出回る小アジも美味しいもの。唐揚げや南蛮漬けにすると丸ごと食べられます。

マアジの姿寿司

 とりわけ酢との相性が良く、スダチを添えた「アジの姿寿司」は、徳島の夏祭りの味として欠かせません。

「マアジの姿寿司」の作り方

(1) 頭を割り、背開きにして、内臓、目玉を除く。水洗いした後、キッチンペーパーなどで水気を取り、両面に塩を打つ。
(2) 酢2、みりん1,調味料少々の割合で合わせ酢を作り、2〜3時間漬け込む。
(3) ゼイゴを取る。酢に漬けることで、手で簡単に除くことができます。
(4) 酢1,砂糖2,塩少々の割合で寿司酢を作り、ご飯と合わせる。たわら型に握り、アジをのせて形を整える。

シロギス

涼やかな夏魚

 天ぷらの素材として欠かせないキス。上品な白身で酢の物や昆布締め、ピカタなど幅広く活用できます。鳴門市北泊の地元では、獲れたての新鮮なものよく刺身にするそうです。今回は三枚におろして結んだ身を使った上品な椀物とポピュラーな天ぷらを紹介します。

キスの天ぷらとワカメのかき揚げ

(1) 鱗を取り、頭と内臓をはずし、背開きにしてから中骨、腹骨を除く。
(2) 水洗いして水気を取る。尾を手で持って衣を付け、油で揚げる。
(3) 戻したワカメを細かく刻み、天ぷらの衣の中に入れて軽く混ぜる。
(4) (3)をしゃもじの上に乗せて、箸で滑らすように油の中に落として揚げる。磯の香り漂う、鳴門ならではの一品。

キスの吸い物

(1) 鱗をこそげ、頭と内臓を取り三枚におろす。
(2) 腹骨を除き、身の中心に細長く切れ目を入れ、両端の身を切れ目にくぐらせてねじる。
(3) 鍋にだし汁、塩、薄口しょうゆ少々ですまし汁を作り、キスを入れて軽く沸騰させる。椀に入れ、三つ葉、卵の細切り、スダチを添える。

小エビ

漁家に代々受け継がれてきた味

 紀伊水道に面した小松島漁協ではクルマエビ、アシアカエビ、シラサエビなど、エビ類が多く漁獲されます。地元で捕れる新鮮な小エビを使った「小エビのそぼろ寿司」は、小松島の郷土料理です。

小エビのそぼろ寿司

 材料となるのは、地元で「サルボエビ」と呼ばれる小エビで表面がひときわ赤い色をしているのが特徴。そぼろにしたとき、きれいなピンク色になります。祇園祭の時には、漁家に欠かせない味として母から娘へ、義母から嫁へと代々受け継がれてきました。昔はお祭りが来ると重箱にたくさん詰めて親戚や近所の人に配ったそうです。少々手間がかかりますが新鮮な小エビを手に入れたら是非挑戦してください。ほんのりと甘くてやさしい味です。

「小エビのそぼろ寿司」の作り方

(1) 沸騰したお湯で3〜5分塩茹でした後、小エビの皮をむき、フードプロセッサでミンチ状にする。
(2) すり鉢に移して砂糖を入れ(むき身の約2割の量)潰すようにする。
(3) フライパンに取り、弱火でゆっくりと木杓子で混ぜ、水分を飛ばす(約10分)。俵型にまとめた寿司飯に、そぼろをまぶして完成。

小エビの唐揚げ

(1) 新鮮な小エビに薄く天ぷら粉を付け、二度揚げする。二度揚げすることにより、カリッと仕上がり、頭まで食べられる。

小エビの海老団子

(1) 生の小エビの皮をむいて、まな板の上で粗めに包丁でたたく。
(2) ボールに移し、塩、片栗粉少々を混ぜる。
(3) スプーンですくい、パン粉に付けて丸く形を整えて揚げる。

イサキ

焼き切りに挑戦

 イサキは、徳島県南部では6〜9月に旬を迎えて美味しくなります。身は白身で淡泊ですが弾力性に富み、中骨などのアラには濃厚な脂がのっています。おすすめ料理を牟岐町漁協婦人部の皆さんに伺いました。

 「十分に大きくなったものなら、刺身か焼き切りですね。あと、アラと豆腐の煮付け。小さいものは唐揚げが一番。」

 また、焼き切りにして残ったアラは豆腐と一緒に甘辛く煮付けます。こってりとしたアラの脂の旨味が豆腐にしみて、食欲を誘います。

 「小振りのものは、よく揚げれば骨まで食べられますよ(同婦人部の皆さん)。」ご飯のおかず、お酒の肴にと重宝です。

イサキの焼き切り(焼き霜造り)

 焼き切り(焼き霜造り)は、刺身で飽き足りない方にはおすすめ。手軽に出来て香ばしく上品な一品となります。

「イサキの焼き切り(焼き霜造り)」の作り方

(1) 鱗を取り、皮を付けたまま身を三枚におろす。
(2) 片身を側線に沿って二等分し、焼き網を使って(もしくは串に刺し)、ガスなどの直火で表面をあぶる。
(3) 焼き色が付いたところで冷水にサッとくぐらせ、身を引き締める。
(4) これを刺身に切って盛り付ける。

イサキのアラ煮

(1) イサキのアラ、もめん豆腐、千切りしたショウガを一緒に鍋で煮る。
(2) 塩、酒、しょうゆで味付け。煮詰まると味が濃くなるので控え目に。
(3) アクを取りながら煮詰める。
(4) 最後にしょうゆで味を調えて仕上げる。

イサキの唐揚げ

(1) 小振りのイサキのワタを取り、身の両側に切れ目を入れる。
(2) キッチンペーパーなどで水気を取り、表面、腹、切れ目の中まで、しっかりと塩、コショウを振る。片栗粉を付けると油が飛ばない。
(3) 油の温度は高めで一気に揚げる。
(4) 表面がキツネ色になれば出来上がり。

チリメン

チリメン独自のだしを生かす

 太陽の光をいっぱいに浴びたチリメンは小さな体の中にたっぷりの滋味が凝縮しています。天日で乾燥させた「上乾物」はチリメンの代表格。日持ちも良く、噛めば噛むほど旨味が口の中に広がります。

 料理法や好みに合わせてチリメンのタイプも選ぶことができます。例えば、漁獲したイワシの稚魚(シラス)を素早くボイルした「釜揚げ」は柔らかい食感が魅力。子どもからお年寄りまで幅広く食されています。

 「チリメンは独特の上品なだしが出るから、どんな料理にも合うんよ」と話すのは、和田島漁協の婦人部の皆さん。チリメンチャーハンをはじめ、厚焼きたまごに入れたり、お好み焼きに入れたりとアイデア次第で調理法は無限に広がります。少し日が経って固くなったものでも佃煮などにすれば十分美味しくいただけます。また、和田島には捕れたての生のシラスを使った料理法もあります。なかでもお吸い物や天ぷらなどがおいしいそうで、ホクホクとした歯触りは絶品だとか。生のシラスは傷みやすく、入手方法は限定されていますが、是非一度味わってみたいものです。

もやしチリメン

(1) フライパンにチリメンとニンニクのみじん切りを入れ、キツネ色になるまで空炒りする。
(2) (1)に少量の油を落とし、もやしを入れて炒める。チリメンの塩分を利用するので塩は使わない。
(3) 好みにより唐辛子オイルをかけて出来上がり。

カサゴ

あなどれない味わい

 カサゴは沿岸や沖の海底などの岩礁に好んで住み着いていることから、釣りの対象としてもポピュラーな魚です。徳島ではガガネとも言い、地域によってガシラ、赤メバルなどとも呼ばれ親しまれています。

カサゴの唐揚げ

 ゴツゴツした感じでエラの張った姿はグロテスクですが、身は淡泊で煮付けや唐揚げなどにすると、じわじわと味わい深い魚です。

「カサゴの唐揚げ」の作り方

(1) 鱗を落とし、ワタを取り出したら、身の両側に2〜3筋、背にも深めに包丁を入れる。適量の塩、コショウをまんべんなく振る。
(2) 水気を取って小麦粉を全体にまぶす。
(3) 高温の油に入れる。包丁を入れたところから身が盛り上がり、キツネ色になったら一度裏返し出来上がり。(油の中であまり頻繁に裏返していると、身がくずれるので注意が必要)

トコブシ

小さなアワビ

 トコブシはアワビによく似た味と形をし、牟岐町など地元では流子「ナガレコ」とも呼ばれています。大きさはせいぜい長径約7cm程度で水深10mより浅い岩の下などにくっついています。「昔からこの辺りでは、毎年4月3日を浜節句と言って、家族や友人など、みんなで浜に出かけて祝っています。その時に持っていくお弁当は必ず、トコブシの煮付けを入れていくんですよ。お正月のおせち料理みたいなものです」と、牟岐東漁協の生活部会の皆さん。

トコブシ丼

 このトコブシを、鶏肉の代わりに使って親子丼風にアレンジしたのが、トコブシ丼です。アワビの歯ごたえを残しながら、柔らかく煮込まれたトコブシが、口の中でプリプリはぜるのが、こたえられません。

 型の大きなものは刺身やステーキにして食べられているそうです。

「トコブシ丼」の作り方

(1) トコブシのぬめりを、スプーンを使ってしごき落とし、スプーン裏側を使って殻からはずす。身とワタに切り分ける。
(2) トコブシを薄切りにする。タマネギをスライスして、戻した干しシイタケを千切りにしておく。この具は人数分、適量用意する。
(3) (2)の材料とトコブシのワタをフライパンで一緒に炒める。全体にしんなりしてきたら、だし汁(干しシイタケの戻し汁)5、しょうゆ1、みりん1、砂糖適量の割合を目安に味を調える。
(4) 1人前の具を別の鍋に取り、青ネギを入れて卵でとじ、ご飯に乗せて出来上がり。

フノリ

自然の塩加減が絶妙

 「自然の塩加減が効いているので味付けしなくてもいいんですよ。味噌汁の具や天ぷらにも便利」(牟岐東漁協の生活部会の皆さん)。フノリは塩に洗われる岩に付着して繁殖する海藻で、長さ10cmくらいに生長します。それを手で採取するのですが、ゴミが混じらないように注意を払わなければならない手間のかかる食材です。

フノリの天ぷら

(1) 適量の乾燥フノリをちぎり取って、水に戻さずそのまま衣を付ける。
(2) 油の温度は高めで、衣が揚がれば出来上がり。衣を少なくしてカラリと揚げると酒の肴に。たくさん付けて揚げるとご飯のおかずに最適です。