研修会報告

令和4年度 地域子育て支援者の専門研修会

日時

令和4年11月4日(金)13:00~16:00

場所

徳島市山城町東浜傍示1-1
アスティとくしま2階 ときわプラザ学習室

参加者数

20名

講座は、検温、換気、マスク着用、手指のアルコール消毒、会場内の消毒の実施など新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策を講じて開催。

「地域でつながり、創る!子どもたちの未来~いま私たちにできること~子どもアドボカシーの視点から」

講師:江口 久美子さん(徳島文理大学保健福祉学部人間福祉学科教授)

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地域の子育て支援者、行政担当者等が日頃の活動を振り返り、より専門的な見識を深め、高いスキルを身につけ、地域の子育て力を高めることを目的に「地域子育て支援者の専門研修会」を開催しました。今回は、徳島文理大学保健福祉学部教授の江口久美子さんを講師に迎え、子育てに携わる者として、改めて子どもたちに何が必要で、何ができるのかについて、子どもの権利、アドボカシーの視点から学びました。

講義

1 子どもの権利・子どもの声を聴くこと

◇子どもの権利条約

「子どもの権利」

  • 生きる権利
  • 育つ権利
  • 守られる権利
  • 参加する権利

「第12条」意見を表す権利→子どもアドボカシー

子どもは、自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利をもっています。その意見は、子どもの発達に応じて、じゅうぶん考慮されなければなりません。(日本ユニセフ協会抄訳)

⇒子ども自ら、タイミング良く意見を述べることは現実的には難しい。司法や行政の手続きに聴聞される機会を組み込んでおくことで、意見表明権の実効性を担保

◇子どもの権利擁護

■児童福祉法第1条=子どもの権利保障を理念として明確に位置付け

全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。

■児童福祉法第2条=子どもの意見を尊重し,その最善の利益を優先して考慮

全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。

◇子どもの権利擁護の枠組み

子どもの権利擁護の枠組み(あるべき姿のイメージ)

意見表明支援として、子どもが意見表明しやすい場・機会をどうつくっていくのか。この枠組みの全体像を知った上で、現場での子どもの支援をやっていかなければならない。

◇子ども家庭総合支援拠点

全ての子どもとその家庭及び妊産婦等を対象に、福祉に関する支援業務などを行う。

(業務)

  • 子ども家庭支援全般に係る業務(実情把握、情報提供、相談等への対応、総合調整)
  • 要支援児童及び要保護児童等への支援業務
  • 関係機関との連絡調整(要保護児童対策地域協議会の活用、児童相談所との円滑な連携・協働の体制の推進等)
  • その他の必要な支援(里親支援、一時保護又は措置解除後の児童等の安定した生活の継続支援)

◇こども家庭センター(市区町村)の設置=令和6年4月以降

子ども家庭総合支援拠点(児童福祉)と子育て世代包括支援センター(母子保健)の組織を見直し、全ての妊産婦、子育て世帯、子どもへ一体的に相談支援を行う機能を有する機関

(業務)

  • 児童、妊産婦の福祉や母子保健の相談等
  • 把握・情報提供、必要な調査・指導等
  • 支援を要する子ども、妊産婦等へのサポートプランの作成、連絡調整
  • 保健指導、健康診査等

◇子どもの声・意見を反映させることを定めた法律

■改正児童福祉法(令和6年4月1日施行)

都道府県知事または児童相談所長は、児童の意見または意向を勘案して措置を行うために、あらかじめ年齢、発達の状況その他当該児童の事情に応じ、意見聴取その他の措置をとらなければならない。

■子ども基本法(令和5年4月1日施行)

全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保されること。

子どもの権利にかかわる法律 概念図

引用:日本財団 子ども基本法WEBサイト(kodomokihonhou.jp)

■こども家庭庁設置法(令和5年4月1日施行)

こども家庭庁は、こどもの年齢及び発達の程度に応じ、その意見を尊重し、その最善の利益を優先して考慮することを基本とする。

こども家庭庁のイメージ

引用:zuno-ishikawa-tv.net

先ず、子どもの意見を聴くこと。
子どもの意見とは、「僕は○○と思います」というまとまったものではなく、ぽろっと漏らしたり、遊びながら言ったりとかのつぶやきや絵に描いたものにこちらが近寄って、如何に感じ取り、読み取り、拾い上げていくかという感性が絶対に要る。
また、それを如何にケアにつなげていくかというこちら側の構えも必要になってくる。

2 ヤングケアラー

ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されるような家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものこと。

ヤングケアラーはこんな子どもたちです
  • 子どもが担っている家事や家族の世話を代わりにやってくれる大人やサービスにつなげ、子どもが不適切なケアを担うことを防止し、家事や家族の世話を行っている時間を減らすことが主な選択肢の一つになる。
  • 「本来担うべき大人が担えていない」ことが課題であるため、家事援助サービスや訪問看護といった高齢福祉や障がい福祉などのサービスにつないでいくことが必要。
  • 児童福祉ではどうすることもできなくても、多様な機関はできる支援内容や権限が違うので、そこと連携して支援をしていくことが不可欠。ヤングケアラーの場合は、本人の意思が尊重されるべき。本人がどうして欲しいのか、本人の意見をまず中心に据える。

ヤングケアラーは、育つ権利、教育を受ける権利が保障されていない。子どもの権利が侵害されている状況にないか、子どもの意見・気持ちに耳を傾け、子どもへの支援の必要性、どのような具体的な支援を必要としているかというニーズをきちんと把握した上で、その必要な支援や関係機関につないでいくことが求められている。

3 発達障がいと愛着障がい・発達凹凸特性のある人への支援

(1)発達凹凸特性のある人への支援

◇自閉症の場合

  • みんなの話し声が同時に聞こえる。先生と児童の会話や先生が黒板に書くチョークの音が同時に聞こえ、話に集中できない。
  • 一つのことに目が行くと、それに集中して周りが見えなくなる。

⇒接し方を変えるだけでも自閉症本人が生きづらくなくなったり、笑顔が増えたりするので周りの人が語り合うような形になること。

(例)草抜きの指示

先生:「運動会が近いので、校庭の草をちゃんときれいに抜いてくださいね。」
私:一生懸命に抜いていた。3時間目の始まりのチャイムが鳴ったけど、まだ草が生えていたので抜いていた。そして、いつの間にか誰もいなくなっていた。
先生:私を呼びに来た。「○○さん、何しているの!!早く教室に入りなさい!」
私:先生に叱られたが、「先生、草はまだ生えているよ。」

指示の内容が曖昧(いつまでにやりなさい、きれいな状態とはどういう状態か指示していない)
→結果はバラバラになる。
子どもの方が状況を推測して動くので、3時間目が始まったら教室に入る。しかし、その推測が難しい特性を持つ子どもは不適を起こす。なぜ、叱られなければならないのか、先生が草を抜くよう指示を出し、まだきれいになっていないから抜いていたのにと感じ、しんどい思いをする。いろんな特性を持つ子どもがいるということを知っておく。

◇いろいろな特性の例

  • 聴覚過敏:例えば、耳の感度が良いので、音が全部同じ大きさで同じ強さで聞こえたり泣き声がとてつもなく大きく聞こえるなど。
  • 視覚過敏:例えば、スーパーに入った時、LED照明が眩しすぎて何を買ったら良いかわからなくなったり、照明が眩しくて話が頭に入らないなど。
  • 触覚過敏:例えば、雨に当たると針が刺さったように痛く感じるなど。

発達凹凸特性があるということを知っていれば、今はネットなどで調べられるし、情報を得ることができる。
発達凹凸特性がある人がいるということを想像できなければ、近くにたどり着けない。いろいろな特性を持った人がいるという視点を持って対応すれば、支援の幅が広がる。

(2)愛着障がい

◇愛着の絆

人生の初めに、同じ保護者・養育者(母親に限らない)との一貫した愛情のこもった養育体験、養育的人間関係が、その後のその子の様々な基盤(肉体的・情緒的・社会的・知的能力を築く基礎)となるもの。→お互いが望むなら、何歳になってもむすび直すことができる。

◇不幸な体験・不安定な養育体験があると行動に影響してくること

子ども時代の不幸な(逆境的小児期)体験
=緊張,不安の絶えない環境,劣等感の蓄積、集団からの攻撃、無視排除、未熟な対人関係等
⇒感情・行動の脳のコントロールが困難:すぐ手が出る・切れるなど
⇒行動の乱れ:反社会的行動、性的逸脱、解離、自傷、依存等

◇愛着障がいの子ども

子どもはほめられると嬉しいと思うが、ほめられても喜ばない。ほめられることに反応しない。喜びや快楽を感じる脳の働きが低下している。
⇒諦めずにほめ続けること(あなたのことをずっと見てますよ、というフィードバックをし続けること)が大事で、それは大人になっても大事かもしれない。このような働きかけは必ず脳に届いて回復させる可能性があるのでやり続けること。

(3)発達障がいと愛着障がい

  • 発達障がい=先天的な脳機能障がい
  • 愛着障がい=後天的に子どもと関わる特定の人との関係性の障がい
  • 発達障がいと愛着障がいを併せ持っている子どもたちへの支援
    • 言ってもしない子どもに体罰を加えたり放ったらかしにすると悪循環となる。
    • 発達障がいの子どもは過去に虐待された可能性があると言われている。どうしてこういう状態になったのかを理解した上で子どもがほっとする、嬉しい、楽しいというプラス感情を感じられる機会を意識して多くつくる。
    • 関わりの中で同じ行動を一緒にして、それを確認し、同じ気持ちであることを再確認してみることをやり続ける。

いつもプラス感情、ポジティブな気持ちをつくってくれる相手として支援する側が安定基地の機能を果たし続けることが必要。諦めず、ポジティブな感情をつくり続けることが支援につながる。

グループディスカッション

6つの班に分かれてグループ討議し、意見を付箋等に書き出し、模造紙を使って整理した。
その後、講師が各班を回り、議論の状況や模造紙に貼られた付箋等について、コメントを加える形で進行。
模造紙完成後に、各班による意見発表は行わず、互いに他の班の作品を見て回り、班ごとに意見交換を行った。

<表題>
「地域の支援力のさらなるアップを目指し、子どもたちの未来に向けて今、私たちにできること」

<出し合う具体的な意見>
子どもがポジティブな気持ちになれるために何ができるか、子どもの声をより深く聴くためにできることのアイデア、次の一手など。

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感想

  • 子どもだけでなく、子どもから汲み取り親のフォローも必要なことに気付かされた。
  • 他の部署の方と話ができ、違った角度から見ることができた。
  • 子どものつぶやきや願いを大人の私たちが感じる感性が必要であること。ていねいに拾える人材になりたいと思いました。
  • 同じ指示で紙を折ってもみんな形が違った。伝え方の難しさ、受け取る側も取り方がみんな同じではないということの再実感。

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