文字サイズ

やさしいブラウザ・クラウド版はこちらからご利用下さい

広がるSDGs

SDGs×徳島県 WITHコロナ時代を迎え撃つChallenger Vol.3

株式会社メディアドゥ代表取締役社長 CEO藤田恭嗣さん(47歳)

株式会社メディアドゥ 代表取締役社長 CEO

藤田恭嗣さん(47歳)

プロフィール

1973年、那賀町木頭(旧木頭村)生まれ。国内の電子書籍取次No.1のシェアを誇るメディアドゥを率いる。
近年は生まれ育った木頭での地方創生に力を入れ、木頭柚子の栽培・加工販売を行う「黄金の村」や最新設備を取り入れたキャンプ場「CAMP PARK KITO」などを設立。
2020年1月に地元企業と共に「徳島イノベーションベース(TIB)※」を立ち上げ、代表理事に就任。県内の起業家をバックアップする環境を整えている。
※メディアドゥ、徳島新聞社、四国放送、阿波銀行、徳島大正銀行の5社が共同で設立した一般社団法人。

SDGsアイコン(質の高い教育をみんなに・働きがいも経済成長も・産業と技術革新の基盤をつくろう・住み続けられるまちづくりを)

インタビュー全文公開

大切なのは、挨拶をすること。
人と人との繋がりこそが、誰ひとり取り残さない社会に直結します

 SDGsでは「誰一人として取り残さない」というキーワードがありますが、これは地方創生を実現することと関連が深いと思います。メディアドゥさんは、地方創生の一環として徳島での雇用創出に取り組んでおられますよね?

 僕の出身地である木頭での雇用創出のために、13年前の2007年にメディアドゥの木頭事業所を作りました。メディアドゥの下請けという位置づけで業務を担っていただいています。今は6人が働いていて、木頭出身の人がほとんど。中には木頭で採用し、東京や徳島市内で働いている人もいますし、木頭出身ではないけれども、木頭事業所で働く徳島県内出身の人もいます。また、2017年に「メディアドゥテック徳島」を徳島市川内町に作らせていただいて、現在は約90名を雇用しています。最近では、徳島の企業とメディアドゥで出資して一般社団法人徳島イノベーションベース(TIB)を作り、徳島の方を中心に起業のノウハウを学んでもらう試みをしています。

TIBを作ったキッカケは何ですか?

 僕はプライベートでも木頭を創生しようと思い、「黄金の村」という会社や「CAMP PARK KITO」、「未来コンビニ」などを作り、そこで57名を雇用しています。こういった経験を経て気づいたのが、僕だけでいろんなことをやったとしてもシナジー(相乗効果)が生まれにくいということです。

 僕が社長として資金を提供して、社員がその下で指示を待って一緒に頑張る縦の構造はできるんですが、僕起点じゃない人たちは単純に取引先、あるいは利用者になっていただくしかない。もっと起業家の仲間を増やしていかないと地方創生は効率的に難しいと思ったんです。行政の力をお借りして創生の努力をするのは昔からあるし、今もそれが中心。でも、僕が目指している世界は、誰かの資金をいただいてやるというよりも、自らリスクを負ってやること。リスクがあるからリアリティが分かる。リスクがあるから危険な状態になった時には自分の判断で「これは危険だからやめる」とアクセルをゆるめられる。そういう嗅覚があるかないかで再建の力って違うんですね。

 地方を創生していくためには起業家の育成と起業家の仲間を作ることが必要です。そういった環境を作らないと…、地方創生はお金と雇用のかけ算では無理だなと、数年いろんな取り組みをやってみて気づき、TIBを作りました。

一般社団法人徳島イノベーションベース(TIB)の様子

起業家としての嗅覚を養うためにTIBでできることとは何でしょうか?

 まずは知らないを知るということ。起業は情熱だったり、想いだったり、個人の能力である程度できちゃうんです。でも、これがエクスパンド(拡大)やスケールになると、一気に難しくなる。雇用は売上に沿ったものしか生まれない。つまり、企業が規模を大きくしていく、利益をしっかり出していくことが地方創生に近づいていくと思うんです。

 優秀な人が「会社を作りたい」「地方創生したい」と思っても、なかなか規模が醸成されない。規模を醸成するためには、規模の大きい経営者から話を聞いて刺激を受けなければいけない。つまり、視座をあげる必要があって。学問でもなんでもそうですけど、上には上がいるということですよね。経営に関しては売上、利益、従業員数などで「上」が分かりやすいと思います。そんな経営者の方に、TIBとしては来ていただいてお話を聞く機会を作りたいと思っています。やっぱり刺激が必要ですよね。

個人としてSDGsに取り組んでいることはありますか?

 僕が生まれた那賀町木頭は15年くらい前まで「木頭村」という一つの独立した自治体だったんですが、2005年に5町村が合併して那賀町になりました。でも、僕の中で一番失ってはいけないものは「心」だと思っています。心というのは何なのかというと、「アイデンティティー」ですね。自分が「木頭村」という村で生まれ育って、おばちゃんやおじちゃん、近所の人たち、同級生や先輩や後輩、彼らがいて今の自分がいる。そういうアイデンティティーを忘れてしまっては根無し草になって、糸の切れた凧みたいにどこへいってもその人を証明するものがなくなってしまうんですよね。自分の根っこがどこにあるのか、アイデンティティーを持てるかどうかが重要なんです。

 僕としては、みんなに木頭の将来に対して期待と希望を持ってほしい。将来に可能性があると、新たな選択肢ができると思います。そのために、毎年木頭学園という小・中学校に行って講演をしたり、外国人を連れていく取り組みをしたり、会社を作って雇用創出したりしていますが、一緒に働く方々や子ども達に少しでも刺激を感じてもらえればと思います。僕は木頭を人生と重ね合わせて、そこに根っこがあることを漠然と理解してもらうために地元で活動をしています。

 また、子どもに対して「こんな村しょうがないから出ていった方がいい」と言う親と、「帰ってこい」と言う親がいると思うんです。「帰ってこい」も、「木頭には、こういう働き先と将来の希望があるから帰ってこい」というような理屈と論理があるのとないのとでは、全然違う。その希望の糸口をつくるためにやっています。

木頭の風景

それが「黄金の村」や「CAMP PARK KITO」などにつながるんですね。

 そうですね。黄金の村は、木頭の特産が柚子ではなく、みかんだったらやっていないと思います。柚子はうちの村がつくったアイデンティティーであり、品質が世界NO.1。アイデンティティーになりうる商材、素材でありうるのが大きいですね。キャンプ場に関しては、木頭は木に頭と書く通り自然豊かなところ。自然をより身近に感じてもらう環境でありつつ、昔ながらのどこにでもあるキャンプ場だとイノベーションが起こらないので、最新のデザインを取り入れました。ただ作ればいい、というわけではないんです。

 2020年4月にオープンした「未来コンビニ」のテーマは“世界一美しいコンビニ”。コンビニは便利だけど、便利に流されると根無し草になってしまうんですよね。世界一美しいことに興味を持って来てもらうことはもちろん、子ども達に“世界一美しい”とは何なのか、本質的に必要なもの、必要な美しさを感じてもらうために未来コンビニを作りました。

黄色い柱が特徴的な未来コンビニの美しい外観。

コロナ情勢でいろんな制約がある中、取り組みに変化はありましたか?

 TIBでの講演ですね。僕自身も含め、毎月オフラインで現地開催することが前提でした。あえて徳島にいる方に限定し、時間的制約を受けてもいいと考えていました。けれども、今はコロナの状況の中で人が集まることができないため、講演をオンラインで開催せざるをえなくなりました。結果的に、オフラインでしか集まれない、学べないという環境から、海外にいようが日本中どこにいようが、もしくはお料理中でもお食事をしている時でも、自宅からネットにさえ繋げば、そういう刺激、情報を得ることができるようになりました。分母が広げられたんです。これは、コロナによって結果的に得られたメリット。

 今後、仮にコロナが落ち着いたとしても、オフラインのみで開催することはなくて、オンラインとオフラインのハイブリッドで開催していこうと思っています。コロナを経験したからこその学びであり、対策ですね。

取材の様子。徳島のTIBと東京のメディアドゥ本社を繋いで行いました。

徳島で活動されることの魅力はどんなところに感じていますか?

 いろいろありますけど、一番感じるのはアイデンティティーですよね。僕がこれから目指すことは、5年や10年で完成するレベルでは見ていません。僕が死んだ後にこそ分かる世界を、今から何十年かかけて仕込むってことしか考えていないんです。香川や東京でどんなに頑張ったとしても、僕が死んだ時に何が残せたんだろうとなる。それなら僕が地元でお世話になった方々に触れあいつつ、僕が死んだ時に、「それなりのことをあいつはやったよね」と思ってもらえるようなことをしたい。それができるプラットフォームは徳島でしかなくて、それが他県にはない魅力だと僕は思います。

藤田さんがインタビューに答える様子

これから新しく力を入れていこうとしている分野はありますか?

 僕が子どもの頃から木頭にずっとないなと思っていたのは「食」「文化」「教育」の3つ。どうにかしていきたいなと思って、まずは東京都内にレストランを作りましたが、まだまだある一定の水準には至っていません。また、特に力を入れていきたいのは教育。TIBも教育の一環です。経営者が学ぶ環境を起業家たちが提供する。これも一つの学びでしょうし。あとは、子ども達に対する教育ももちろんやっていかないといけないと思っています。

 それと、村で生活をしているご年配の方々が楽しんで学べる環境を作りたいですね。地元のみなさんが楽しめるような体を動かす教育、自然と戯れる教育、学問の教育…など、さまざまな教育の環境がつくれたらいいと考えていて、著名な格闘家が主宰する格闘技の道場を木頭地区で開くことなども現在検討しています。

SDGsの観点でこれから取り組みたいと考えていることを教えて下さい。

 教育や雇用はもちろん、僕がこれからやっていこうとしているのは「自然環境」への取り組みです。木頭は一番上流にあって自然が豊かなところ。上流に元気があってこそ下流が潤います。40年前から僕が住んでいて、川で泳いだり、魚の生態系を見たりしているので思うことなんですが、今は山も枯れて、川も枯れてきていると感じています。今、手を打たないと僕が死んだ50年後60年後においては大変なことになる。だからこそ、自然環境にフォーカスしたいと思っています。

豊かな自然に囲まれたキャンプパーク木頭の様子

SDGsにおいて、暮らしの中で誰もが取り組めることは何ですか?

 そうですね…SDGsという言葉自体みなさん知らないんじゃないですかね。17のゴールに対して、こうしましょう、ああしましょうと言ってもなかなか論理的に意識して理解して行動するというのは、環境的にまだ整っていないと思います。SDGsの考え方は「誰ひとり取り残さない」こと。誰か来た時にちゃんと受け入れられる環境であるかが大切だと思います。誰かに会ったときにはコミュニケーションを取る。挨拶をする。そういうところを常々みんなが考えていてさえすれば、誰かが海外から木頭地区に来た時に、自分たちがマジョリティ(多数者)で、海外から来た人がマイノリティ(少数者)の状態になっても、挨拶をすることで誰ひとり取り残さないことになるでしょうし。誰か困っている人がいたら、困っていることを聞いてあげるだけでもおそらく救われるでしょうし。重要なのはコミュニケーション。人と人との繋がりこそが誰ひとり取り残さないことに直結すると思います。挨拶をすることが、まずは一番ですね。

 そして、SDGsとは何なのか。これをぜひ知ることですね。インターネットで検索してみればいくらでも出てくるので。そこから始めていかないと、SDGsや誰も取り残さないことを前提に挨拶をするのと、ふつうに好きな人に挨拶をするのとでは、心持ちが変わってくると思うんですよね。まずはSDGsがなぜできたのか、17のゴールはどういうものがあるのか、SDGsが生まれたことによって世の中がどういうふうに変わろうとしているのか、変化や変遷に対して知識を備えて敏感になってほしいと思います。

これからの若い世代の皆さんへメッセージをお願いします

 まずはいろんなことに興味を持って、いろんな大人たちと会って、いろんな友達たちともコミュニケーションをとって、自分が今気づいていない潜在的にある可能性や選択肢に気づくということが一番大事ではないかなと思います。

 つまり、徳島県に帰るか帰らないかの前に、自分の人生が結果的に豊かで幸せだったと思うことができるかどうかが一番重要だと。

 そういう文脈の中で、自分たちのアイデンティティや根っこがどこにあるのか。それは徳島県なんですね。徳島県出身の方の根っこ、アイデンティティというものは徳島県を外して語ることができない。というなかで、自分の豊かな可能性という自分の豊かな選択肢、これを知ったうえで自分の役割というものが、どういう役割を担えば徳島県というところに貢献ができるのか、恩返しができるのか、そういうことを考えていくのが非常に重要だと思っています。

 僕の例でいくと、徳島で生まれて、大学で徳島を離れて、起業して会社も上場させて、今僕は徳島と木頭と両方を行ったり来たりという状況ではあるんですけど、そんななかでキャンプ場を作ったり、雇用を創出したりとか、そういう役割というものを、僕は1人の徳島県出身の人間として、そういう役割を担ってるんじゃないかなという風に思っているんですね。

 なので、何が何でも徳島に住まなきゃいけないというふうに思う必要は僕はないと思っていて。なんだけども、結果的に最後はどこに住むのか、これは僕でも決めてるように僕の子供も必ず徳島県で育てるというふうに決めてるように、やはりアイデンティティというのは残念ながらというか本質的には、あなたが生まれた場所にあると思っているので。結果的にはどういう思いで、どこに行っていようが、徳島のことを思い続けていただくこと、これが1番僕は大事なことなんじゃないかなと思っています。

 徳島のふるさとのことを思いながら、自分の可能性を最大化すること。その2つを組み合わせて、結果自分が幸せな人生ってのはどこにあるのかというのを探求していくこと、これが一番大事な生き方なんじゃないかなと思います。

藤田さんの笑顔