広がるSDGs
一般社団法人ひだまり 理事
藤井園苗さん(39歳)
プロフィール
ゼロ・ウェイストアカデミー※で働くために、約10年前に上勝町へ移住。
同町が掲げる「ゼロ・ウェイスト宣言」に基づき、町内のゴミをゼロにする取り組みや広報活動を行う。現在は一般社団法人ひだまりでシルバー人材センターや有償ボランティアタクシーなどを運営。町民の様々な困りごとをサポートしている。
※「ごみ」をごみでは無くすことに取り組んでいる特定非営利活動法人。
身近な問題に目を向けて
関心を持つことが最初のステップです
これまで上勝町でどんなお仕事をされてきましたか?
ゼロ・ウェイストアカデミーでの活動が一番最初ですね。上勝に来た理由でもありますから。事務局長として現場で7年、役員として3年携わりました。その前までは航空自衛隊に入っていて全国を回っていました。国を守る仕事、国防は、日本のみなさんのためにやっている仕事だと頭では理解していても、直に地域や住民の方々と接する機会がどうしても少なくて。間接的に得られる喜びではなく、自分の目の前で喜んでほしいなと思うようになり、28歳くらいの時に徳島に戻ることにしました。これまで税金で教育してもらってきた立場なので、公に奉仕する仕事ができればよりいいなと思ったんですね。公務員の手の届かない分野で誰かの役に立てればって。そんな感じで戻ってきたんですよ。
ゼロ・ウェイストアカデミーとの出会いは本当にたまたまなんですが、アカデミーのスタッフが出るフォーラムが新聞に載っていたんです。同世代の若い子が徳島で先進的な取り組みをしていることに興味を持ちました。その子の話を聞くためフォーラムに傍聴に行ったら、「後継ぎを探しています」みたいな話題になって。それで募集を知り、応募を出して、偶然採用されました。最初は「上勝」にこだわってやって来たわけではなかったんです。ご縁なんですよね。
ゼロ・ウェイストアカデミーではどのような活動をされていましたか?
上勝町は「ゼロ・ウェイスト宣言」、2020年までに焼却ゴミ、埋め立てゴミをゼロに近づける努力を最大限しますって宣言をしているんですね。日本の自治体では初めてのことなんです。上勝の取り組みは異質で徳島では浮いているんですけど、逆に全国、全世界からはものすごく評価されていました。視察だけでも年間数千人。町の人口より多い人が来ていましたし、取材にいらっしゃるメディアも多かったので、その対応をしていました。他には、「ゴミの取り組みを進めたいけど、どうしたらいいか分からない」という全国の自治体に行ってお話をすることもありました。
町内での取り組みは、焼却ゴミや埋め立てゴミをなくすことを目指して、現場でできることを突き詰めていきました。ゼロ・ウェイスト活動を町民の方にご理解していただくための普及啓発活動にも力を入れ、いろんなイベントを企画していました。「ゴミ」で人は集まらないので、何かと何かをかけ合わせていかに関心を持ってもらえるか、考えるのに苦労しましたね。
リメイクショップ「くるくる工房」は、思い出のあるものを何かに活かしたいという思いから生まれました。例えば、着る機会が減ってきている着物。昔おばあちゃんが嫁いだ時に仕立てた大切な着物も、持ち主が亡くなられたらタンスごと捨てられちゃうこともあるんです。どうしようもないことかもしれないけど、やっぱり寂しいですよね。くるくる工房では、着物をバッグや雑貨に作り変えて、いろんな付加価値をつけています。中には、ハサミを入れるのがもったいないくらいキレイな着物も出てくるんですよね。着る機会がなくて捨てられるのであれば、その機会を作ればいいじゃないかと。着つけとメイクつきのイベントを立ち上げて、若い子に着物文化に触れてもらうきっかけを用意しました。そうすることで、捨てられる物が少しでも減ったり、捨てられかけた物が必要な誰かに受け継がれたりすることに繋がるんです。
現在所属されている一般社団法人ひだまりではどんなお仕事をしていますか?
ひだまりは町の困りごとを解決するために作りました。過疎高齢化による労働面での働き手不足をはじめ、人と人のマッチングができていないからうまくいっていない部分をサポートしています。一つは「シルバー人材センター」。高齢の方々には定年など関係なく、ずっと生きがいや仕事を持って元気でいてもらおうと思っています。あとは、「有償ボランティアタクシー」です。バスの路線廃止などがあって町内の移動が不便になってしまったんですね。それを補完するために通常のタクシーのやり方ではなく、町民の方々が助け合いでオンデマンド交通を運営しています。ドライバーさんは普通の町民で、配車を私たちが担っています。
SDGsの17種類のゴールのうち、特に意識しているゴールはどれでしょうか?
全世界であらゆる人が取り残されないためには、どのゴールを重点的にっていうのは多分ないと思うんですよ。「この取り組みはあの人がしてるから」って誰かに任せてしまうんじゃなくて、みんながみんな17項目の視点を持つことで、全体調和といいますか、全体の成果をあげられるのではないでしょうか。ただ、自分の能力として一番発揮しやすいのは、持っている情報が多い環境分野ですね。それに関しては貢献できるかなと思っています。
上勝町でのSDGsの取り組みを教えてください。
SDGsって環境分野から出てきている言葉だってみんな誤解しがちなんです。だから、上勝でSDGsといったらゴミのことばかり注目いただくんですけど、実は上勝はSDGsの言葉が出る前の2013年から「持続可能な美しいまちづくり」の条例を作ってるんですね。その時から経済、社会、環境の3分野のバランスを取って、この町が生き残っていくための取り組みを進めてきてるんです。
経済分野でご注目いただくのが、葉っぱビジネスの「いろどり」です。コミュニティビジネスでおじいちゃんおばあちゃん達が歳をとっても続けられるし、こんな田舎でも全国に売りだせる商品があることが誇り。でもそれってこの自然があるからこそ、成り立つことでもあるんですよね。そして、葉っぱを売っているおばあちゃん達も上勝町民なので当たり前のようにゴミを45分別しています。経済を循環させられるビジネスがあっても、みんなが助け合いをしないと、この町では生活ができないし、町を維持できない。道路をキレイにするのも、水道の管理をするのも、都市部では「行政の仕事でしょ」って言われるようなことも、自分達でするのが文化。行政の限界を町民は分かっているから、行政だけに押しつけないし、「自分でできることは自分でするよ」っていうスタンス。どんどん過疎化が進んでいく地域で「いかに町を残していくか」のためのアクションが、結果的に今の言葉でいうSDGsに繋がっていると思います。
個人としてSDGsに取り組んでいることはありますか?
SDGsのカードゲームがあるんですよ。それを実施できる「ファシリテーター」の資格を2年ぐらい前に取ったんです。SDGsって外から入ってきた新しい概念なのでやっぱり理解が難しい。それをカードゲームという楽しいことを通じて本質部分を体感してもらうゲームなんですね。いろんなアクションが書いてあるカードがあって、自分が持っているお金と時間を使ってプロジェクトを行っていって、世界がどうなるかをシミュレーションできるんです。社会生活をカードで表したって感じですね。SDGsの本質である「自分で動く」ことに気づいてもらえればと思います。ファシリテーターとして県内のイベントや企業研修に呼ばれた時に、カードゲームを開催しています。
SDGsの取り組みが大切な理由は何だと思いますか?
やっぱり困っている人がいっぱいいるからですかね。自分が目にできる困っている現象も物凄く多いんですが、きっと氷山の一角。世界では、計り知れないほどの怖い思いをされている方がたくさんいると思います。SDGsには「誰一人取り残さない」というキーワードがあるんですよ。それってやっぱり大事ですよね。少数派だからって無視するような社会ではいたくないですし、困っている人って少数派の場合が多いと思うんですよね。
コロナ情勢の中、制約も多いと思います。どのように活動に取り組まれていますか?
今までは上勝の視察は現場を見てもらうことが一番でした。ただ、ここまで来るのってお金も時間もかかるのでハードルが少し高いんですよね。コロナウイルスが流行して、町内で新たにオンライン視察のシステムが始まったんです。それが好評みたいで。今まで弱かったウェブ上の情報発信を充実させて、視察のハードルを下げられたのは良かったと思います。ただ、残念なのはゴミステーションの匂いを伝えられないことです。上勝のゴミステーションがいかに清潔で匂いがないかっていうのを実感して驚いてほしいんですよ。ゴミってやっぱりクサいっていうイメージがあると思うんで。じゃあ、クサさの原因って何なのかって気づいてほしいですね。
SDGsの普及啓発活動で行っていることはありますか?
上勝の山奥にある「八重地」地区で、おじいちゃんたちが茅葺き屋根の家を復元したんですね。そこで昔ながらの暮らしや遊びを体験できる「かみかつ茅葺き学校」をやっているんですが、そのお手伝いをしています。家でゲームばっかりしているお子さんも多いと思うんですけど、上勝の広い敷地に来たらわーっと走り始めて、用水で葉っぱ流して遊ぶだけでも熱中してくれるんですよ。自然と親しむ体験や恵みを受けないと、環境を守ろうという気持ちにはなりませんよね。ここでの体験がSDGsの普及啓発になっていると思います。
「かみかつ茅葺き学校」の主体は地元の方々ですが、ウェブでの発信や経理、事務処理は若い子達がフォローしています。やりたいことがあっても、事務処理に時間がかかって本質の活動がおそろかになってしまうことって多いんです。得意分野に集中してもらうために、苦手な部分をできる者がお手伝いする。小さい範囲ですけどSDGsのゴールのひとつ「パートナーシップ」だと思っています。
SDGsの活動を上勝や徳島で行うことの魅力はどんなところにありますか?
身近な人のために働けて、自分がお世話になった方々が笑顔になっていくのが一番嬉しいです。「ホンマ助かるわ~。おってくれて良かった」と言ってもらえた時に自分の存在意義を感じます。
これから挑戦したい新しいことはありますか?
上勝は人が減って働き手が減ってるんです。にもかかわらず、仕事がないからって町を出ていくことが多いんです。確かに上勝では、フルタイムで安定した職を望むと機会は少ない。だけども、人手が足りなくて困ってる事業者や農家さんもいるんです。そういった方々を繋ぐことができればと考えています。また、働くところを複数口にしてその合計で生計を立てる「マルチインカム」みたいな…そういう働き方はどうですか?っていう新しい提案を自分が実践しているところでもあります。田舎だと都会に比べて生活費がかかりません。おばあちゃん達から季節の野菜いただくことも多いし、助け合いの暮らしの中ではたっぷり稼がなくても生きてはいける…。私はそれを楽しみながら、幸せに暮らしています。
暮らしの中で誰もが取り組めるSDGsアクションは何だと思いますか?
関心があることを深堀りすること。自分で情報を得て腑に落ちないと、理解できない複雑な問題って多いですよね。情報が溢れかえっている社会は、ランダムに自分に情報が入ってくるというよりは自分で情報を取りに行くことが多いから…。偏りすぎず気になることを増やしていってもらえたらいいなと思います。それが本当に最初のステップで、まずは知ることからしか始まらないと思いますね。ものすごく遠い世界のことを調べなくても身近な範囲で困っている人って結構いますから。その問題の本質ってなんだろうなって考えるとか。想像する種がないと想像すること自体難しいと思うんです。行動は、関心を持つことから始める。それに尽きます。